太田和之税理士事務所

コラム

事業所得か雑所得か

2021年11月17日

最近「副業で赤字を出して節税するという手法を聞いたのですが・・・・」といった問い合わせが頻繁にあります。
このスキームの正式な名称は多分ないと思いますので、ここでは一旦「副業節税」と呼ぶことにします。
この「副業節税」は10年程前にも流行りました。そして時代を変えて現在また世間に広がりつつあります。
今回はこの「副業節税」を題材にして事業所得と雑所得の違いについて取り上げたいと思います。

 

なお、この「副業節税」は私の感覚では「節税」ではありませんので、カテゴリーは「節税」ではなく「税金」とします。

 

 

副業節税とは

「副業節税」とは、会社員等が副業として事業を持ち、そちらで赤字を作って本業である給与と損益通算し所得税の還付を受けようというスキームです。
10年程前、只野範男氏が「無税入門」という書籍でこのスキームを紹介し話題になりました。

 

例えば年収500万円のサラリーマンが副業で300万円の赤字を作れれば、この二つの所得は相殺されるので大幅な節税になる、という理屈です。(ちなみにこのケースでは所得税はゼロになります。)

このスキームが税法上成立するためには

 

・副業が赤字である
・副業が事業所得に該当する

 

という条件をクリアしなくてはいけません。

 

 

副業が赤字である

まずこの要件が厳しそうです。副業で赤字を出してしまってはいくら節税できても意味が無いようにも思えます。
このスキームでは「生活費の一部を経費にする」という方法で赤字を作る、としています。
例えば自宅の家賃の一部を「事務所用」として経費計上したりします。他にも自家用車関連費用やPC購入代、友人との食事代等も経費計上するのです。

当然ですがこれらの費用は本来経費計上できるものではありません。

 

 

副業が事業所得に該当する

所得税法上、個人の得た収入は10種類の所得に区分され、それぞれ別の方法によって税額が計算されます。
例えば副業でアルバイトをして給与を得る場合は給与所得となります。マンション経営をして得た所得は不動産所得であり、株の売買で得た利益は株式の譲渡所得です。わかりにくいのは、副収入が雑所得か事業所得になるかの区別ですが、明確な基準は設けられていません。
雑所得も事業所得も、収入から必要経費を引いて計算できる点では同じです。

しかし事業所得は給与所得との「損益通算」が可能であるのに対し、雑所得では「損益通算」が不可能です。
そのため事業所得の副業で赤字が出た場合け所得税などの税負担を抑えられるが、雑所得の副業では税負担は抑えられない事になります。

 

 

事業所得の要件

よく「開業届を出せば事業所得に該当する」「継続的な収入があれば事業所得になる」「金額が大きければ事業所得とみなされる」といった声を聞きますが、これらだけをもって事業所得とするのは誤りです。

 

事業所得と雑所得の区分は税額に大きく影響を与えるので、過去に何度か裁判になっています。そしてほとんどの場合、副業は事業所得としては認められていません。
過去の裁判例をみると事業所得の判断基準

 

①自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無
②本人の精神的肉体的労務の投入の有無
③人的・物質的設備の有無
④本人の職業・経験および社会的地位等

 

と要約できます。
人を雇ったり設備投資したりしているか、リスクを負っているか、本業と言えるだけの時間を投入しているか、等によって「本気度」が問われ、フルタイムの会社員をしつつ休日に事業をしている程度では事業所得としては認めない、というのが裁判所の判断です。

 

 

では何故成立(?)しているのか

・副業が赤字である
・副業が事業所得に該当する

 

上記の通り、この2つの条件を法律上クリアするのは相当難しいです。
しかしその手のセミナーに行けば「副業節税」をしている人はいくらでもいます。何故でしょうか。

全員がこの難しい条件をクリアしているかといえば当然そんなことはなく、殆どは「クリアはしていないけど、税務署は何も言ってこない」という状況です。

 

この「副業節税」、摘発できたとしても徴収できる税額はせいぜい数十万円程度。しかも明確に「ここからが違法」という基準が無い為、税務調査に入っても荒れに荒れる事が目に見えています。

税務署から見れば、はっきり言って「割に合わない」のでしょう。

 

税務署の対応としてはどこかで明確な基準を作るか、もしくは見せしめに指南役を数人逮捕して、気合を入れてそれなりの人数に税務調査を入れて痛い目に合わせるしかないでしょう。

現に逮捕されてニュースになっている方もいますし、税務調査が入り多額の追徴課税を払う事になった人の話も(そこまで多くはないですが)聞きます。

 

極端な話ですが、日本人全員が同時に税額ゼロで申告すれば、その99%は見逃される事になりますよね。全て調査するにはどう考えても税務署員の手が足りませんので。

日本の申告納税方式は日本人の善意によって成り立っているのです。

 

 

太田和之税理士事務所では”合法的な”節税は徹底して行っています

安城市以外でも刈谷市・碧南市・大府市・豊田市・豊橋市等の愛知県全域に対応しておりますので、ご興味がある方は是非一度ご連絡ください