太田和之税理士事務所

コラム

インボイス制度②~益税について~

2022年6月2日

前回の記事で消費税の納税額の計算方法と免税事業者について解説しました。

今回はそれを踏まえてインボイス制度についてもう少し深くお話させていただきます。

 

免税事業者の益税

現在、消費税の納税義務を免除されている免税事業者は益税がある、という批判があります。

例えば免税事業者Aが10,000円の商品を販売する場合、通常消費税1,000円を加えて11,000円を請求する事になります。

しかしAは消費税の納税義務が無いので受け取った消費税1,000円は特に国に納付されることもなくAの懐に入ります。

これに対して「Aは本来国に納税されるはずの消費税を着服している」といった批判が出るのです。(この批判が正しいかどうかの議論は一旦無視します。)

 

消費税率が3%の時は大した金額でもなかったかもしれませんが、今や3倍の10%です。それも今後さらに消費税率は高くなると思われますので、影響は拡大するばかりです。

 

そこで「免税事業者に対する消費税は仕入れ税額控除が出来ない」というインボイス制度の登場です。

現状の制度とインボイス制度でどのように違いが出るのか具体例を出します。

 

具体例①「現在の制度の場合」

免税事業者Aが商品を課税事業者Bに10,000円で販売し、Bはこの商品を消費者Cに15,000円で販売するケースを考えてみましょう。

まず、それぞれ商品代金に消費税を上乗せして販売するので、

BはAに11,000円を支払い、CはBに16,500円支払います。

 

Cについて

消費税は消費者が負担します。Cは商品を購入する際1,500円の消費税を合わせて支払っていますので、消費税を負担しているといえます。

 

Bについて

BはCから消費税1,500円を受け取っている一方、Aに対して消費税1,000円を支払っています。

そして国に差額の500円(=1,500円-1,000円)を納税する事で、トータルで消費税に関して得も損もしていません。

 

Aについて

Aは消費税1,000円を受け取っていますが、免税事業者ですので国に納税する事はありません。

よってAは商品の販売以外に消費税1,000円の益税が発生します。

 

一方国はCが負担した消費税1,500円のうち、実際に納税されたのはBが納税した500円だけですので、1,000円損したことになります。

 

 

具体例②「インボイス制度制定後の場合」

具体例①と同じケースを、もしインボイス制度が適用された後ならどうなるか考えてみましょう。

 

Cについて

具体例①と変わりません。消費税1,500円をBに支払い課税は終了します。

 

Bについて

Cから消費税1,500円を受け取っていますが、やはりAに消費税1,000円を支払っています。

ただし、Aは免税事業者ですので国に納税する際にAに支払った消費税1,000円を控除することが出来ません。

よってBはCから受け取った1,500円を丸々国に納付する事になります。

 

Aについて

実はAも具体例①と何ら変わりません。インボイス制度があってもAは1,000円の益税が発生します。

 

 

具体例①と②を比べると一目瞭然です。

どちらもAに益税1,000円が発生する事に変わりはありません。

それに対して損するのが国からBに変わる、という話なのです。

 

 

インボイス制度は免税事業者に不利?

 

インターネットで検索をすると「インボイス制度が出来ると免税事業者に不利になる」といった記事が多く見られます。

しかし、具体例を見る限り損するのは課税事業者のBだけで、免税事業者Aは何ら影響が無いように思えます。

では何故不利になるのでしょうか?

 

ここでBの立場に立って考えてみましょう。

BはAに消費税1,000円を支払ったにもかかわらず、Aはその1,000円を納税しません。そしてその代わりにBがその1,000円を国に納税しなくてはいけなくなります。

 

Bからしたら面白くないですよね

 

そこでBはAに「免税事業者なら消費税を上乗せで請求するのはおかしい。商品代金の10,000円だけ払う」と主張するのが目に見えています。

Bは商品を買う立場ですから、Aより立場が強い事が多いでしょう。Aは取引を切られたくないので、泣く泣くBの主張に従います。

そうしてAは今まで益税であった1,000円を受け取ることが出来なくなり、その分利益が圧迫される事になります。

 

 

そもそも益税がおかしい?

こうして整理すると「そもそもAが益税を受け取っていた事がおかしいのでは?」という考えもあるかと思います。

これについては議論の余地は多々あるのですが、多くの免税事業者は「益税ありき」で値付けをしているでしょうから、業績の悪化は免れないでしょう。

 

 

インボイス制度がつくられた流れを説明させていただきましたが、如何だったでしょうか。

次回は制度そのものの手続きや経過措置等、実務的な面について解説したいと思います。

 

 

 

太田和之税理士事務所では消費税の納税義務やインボイス制度の相談も承っております。

安城市以外でも刈谷市・碧南市・大府市・豊田市・豊橋市等の愛知県全域に対応しておりますので、ご興味がある方は是非一度ご連絡ください。